ステキな恋の忘れ方
薬師丸ひろ子といえば、我が世代にとっては紛うことなきビッグネーム。過ぎ去りし青春時代を語るとき、欠かすことのできない存在だと感じる同世代の方も少なくないはずです。
そんな彼女のヒット曲に「ステキな恋の忘れ方」があります。ちょうど大学時代に流行ったのですが、ふとした話の流れで、その題名を巡って学友たちと認識の相違が生じたことがありました。
一体、題名の意図するところは、「〔ステキな恋〕の忘れ方」なのでしょうか、それとも、「ステキな〔恋の忘れ方〕」なのでしょうか。前者と後者では、曲の意味合いが異なって受けとめられてしまいそうです。
このように、同じ言葉や文章を読んでも、人によって理解や印象が異なってしまうことがあるのは、コミュニケーションを行う上で、十分に心に留めておかなければならないと思います。
さて、かようアーティスチックな解釈論議ならばまだ楽しさもありますが、法令を読んでると、頭痛のするような難解な条文に出遭ってしまうことがあり、そこに規定された趣旨を誰もが同一認識できるのだろうか、という疑問が浮かぶこともしばしばあります。例えば、ある法令の条文を見てみましょう。
当該顧客等又はその代表者等から当該顧客等の現在の住居の記載がある本人確認書類のいずれか二の書類の写しの送付を受け、又は当該顧客等の本人確認書類の写し及び当該顧客等の現在の住居の記載がある補完書類(次項第三号に掲げる書類にあっては、当該顧客等と同居する者のものを含み、当該本人確認書類に当該顧客等の現在の住居の記載がないときは、当該補完書類及び他の補完書類(当該顧客等のものに限る。)とする。)若しくはその写しの送付を受けるとともに、当該本人確認書類の写し又は当該補完書類若しくはその写しに記載されている当該顧客等の住居(当該本人確認書類の写しに当該顧客等の現在の住居の記載がない場合にあっては、当該補完書類又はその写しに記載されている当該顧客等の住居)に宛てて、…(後略)
一読だけでは「ちょっと何言ってんだかわかんない」内容ですね。複雑すぎて、全体として何を規定しているかさえ判然としないと感じられる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、法令の条文というのは、用語定義はいうに及ばず、接続語や読点の使用法に至るまで緻密に考慮され、さながら方程式のごとくロジカルに綴られているばかりか、前後の条文や他の法令との矛盾や重複が生じないよう構成されているのです。だから、第1条から一語一語を適確かつ丹念に押さえていけば、立法趣旨に適った正しい解釈ができるという建前なのです。
ただ、それはあくまでも理想であって、現実はそれほど簡単な話ではありません。私などは、上述のような条文に遭遇すると忽ち難渋し、思わず投げ出したくもなりますし、そもそも条文を読んだ全員が齟齬なく理解できているのかさえ甚だ怪しい気もしてきます。
むろん、これは単に、実務家としての私の読解力や理解力が不足しているだけなのかもしれませんが、だとすれば是非とも、完璧に条文の趣旨が理解できる「ステキな〔法の読み方〕」を修得したいものです。