「社長」を出せ!?
昨今、ニュースなどでカスハラの話題が散見されますが、企業にとっては、その対応を誤れば深刻な問題となりかねない重要な課題のひとつですね。
カスハラ対策の私のお勧め本は、『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』(島田直行著/プレジデント社)ですが、ここでカスハラを論じるつもりはないので、紹介のみに留めておきます。
「君じゃ話にならん。社長を出せ!」
これは、絵にかいたようなカスハラの常套文句。
しかし、この「社長」ですが、実は、会社法上で正式に定義された用語ではありません。肩書として「代表取締役社長」や「代表取締役会長」が巷に溢れていますが、会社法の中では、株式会社の代表権を有するのはあくまでも「代表取締役」であって、「社長」や「会長」ではないのです。
ただし、会社法に「社長」という言葉そのものは出てきます。
(表見代表取締役)
第三百五十四条 株式会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う。
この条文の趣旨を簡単に述べてしまえば、「株式会社の代表者は「代表取締役」なんだけど、「社長」とか「副社長」とか、そうした紛らわしい肩書を名乗らせていたら、会社に責任とってもらうよ」というものです。裏を返せば、「社長」や「副社長」は、会社法上の正式役職ではないということになりますね。
私たちの社会の中では、「社長」の方がはるかに一般的な会社代表者の呼び名として通用していますが、このように会社法上の用語との齟齬があるのです。
確かに、「社長」の名称は、「会社」の「長」という意味でしょうから、実にシンプルで、世間的にもわかりやすいといえばわかりやすい。ならば、「会長」というのは一体何の「会」の「長」なんだ?との疑問が浮かぶ方もおられるでしょうが、会社に設置された「取締役会」の「長」だという理解になります。
(なお、会社ではないのですが、日本赤十字社の代表者だけは、「社長」と法律で規定されています。)
ですから、会社法の条文を踏まえたクレームを付けるのなら、
「君じゃ話にならん。代表取締役を出せ!」
と言わなければなりません。
むろん、いくら正式な法律用語を使ってきたとしても、理不尽な要求に応じる必要は一切ないのですが。