「砂の器」と戸籍
野村芳太郎監督の作品に「砂の器」があります。松本清張の同名小説を映画化したものですが、何度観ても、涙なしには終われない不朽の名作です。
同作品の中では、ストーリーが進むにつれて、犯人の過去が次第に明らかになっていくのですが、そこで重要なポイントとなるのが「戸籍」なのです。
事件の背景には、戦時中の大阪大空襲によって、区役所にある戸籍だけでなく、法務局にある戸籍の副本までも焼失してしまったという事情が、犯人の素性や動機に深く関係しています。
ネタバレしてはいけないので、これ以上の言及は止めておきますが、私が強調したいのは、旧来から我が国に戸籍制度があるおかげで、日本人の夫婦・親子などの親族関係(これらの法律上の関係は「身分関係」とも呼ばれています。)は、的確に登録・公証がされており、実務の上でも多大な貢献をしてきたという点です。現に、私たちが相続登記申請をする際には、戸籍が核となる証明情報となっているのです。
戸籍制度の是非を巡って様々な意見があるのは承知していますが、一人の実務家の眼から見ると、日本が誇るべき優れた制度であることは動かしがたい事実です。以前、裁判官であった方の講演を聴いたことがありますが、「戸籍というものがあるお陰で、これまでの裁判の中で身分関係の認定で苦労したという記憶はない」という趣旨のお話をされていましたが、むべなるかなと思います。
また、戸籍は、国籍とも直接関係しており、自分の戸籍があることが、自分が日本国籍であることの証となっている側面もあります。
将来的には、時代の流れとともに、戸籍の在り方も少しずつ変化していくでしょうけれども、戸籍制度が、私たちの生活の底流を支える有益な社会システムとして機能していくことに変わりはないと思っています。