誰がための登記

 私は、以前、法務局で登記官として勤務していましたが、一般のお客様から、不動産の登記に関して、次の2つの質問をされることが多くありました。
「登記は、しなければいけないのですか?」
「登記は、何のためにするのですか?」

 なるほど、私自身を振り返ってみても、中学校や高校の授業で「登記」という言葉を教わった記憶がありません。(もしかすると、どこかで習ったのかもしれませんが、必ずしも良い生徒でなかった私の頭の中には残っていません。)
 しかし、社会に出て、現実の経済活動に関わってみると、「登記」は様々な場面で耳にする言葉となります。
 学校で十分に教わっていないのですから、皆さんが、そもそも論とも言うべき上述の疑問を抱かれるのは、よくわかります。

 まず、前段の質問ですが、不動産登記についていえば、義務になっている登記と、義務になっていない登記の2種類があります。
 地目変更、建物表題、建物滅失などの「表示に関する登記」と呼ばれる種類の登記は、以前から義務とされていました。
 また、令和6年4月からは、表示に関する登記に加えて、「権利に関する登記」なのですが、「相続の登記」が新たに義務化されました。
 もちろん、義務とされている登記を怠れば、罰則規定が適用されることもあり得ます。

 では、それ以外の登記は、法律上義務ではないので、手続をする必要がないのかといえば、後段の質問と関わってくるのです。
 例えば、「売買の登記」は義務ではありませんし、登記の有無に関係なく、売買契約そのものは有効に成立します。しかし、あなたがAさんから買った土地について、「私もAさんから購入した」と主張する別人物が、突如あなたの前に現れたらどうでしょう。

 端的に言えば、登記は、自分の権利を他人(第三者)に主張するためのものです。
 万が一にも、所有権などの権利を巡って法律上の争いが起きたとき、その登記の有無によって、結果が大きく左右されることになります。
 ですから、御自分の権利を守るために、義務ではないにしても、登記手続をしておくことがとても重要なのです。