ゼノンと法

 事務所名の「ゼノン」はどのような意味なのか、とよく尋ねられます。
 ゼノンは、古代ギリシャの哲学者の名前なのですが、実は、エレア学派のゼノンと、ストア学派のゼノンという、二人のゼノンがいて、全くの別人物です。

 前者のゼノンは、「ゼノンのパラドクス」で知られた哲学者であり、「アキレスは亀に追いつけない」という議論は有名なので、或いは、皆さんも一度は耳にした事があるかもしれません。

 ただ、当事務所名の「ゼノン」は、後者のゼノンを念頭に付けたものです。
 後者のゼノンは、ストア学派の創始者で、哲学を論理学・自然学・倫理学の3つに区分した上で、宇宙は普遍的な理性の法(=ロゴス)が支配しており、宇宙の一部をなす人間は、その理性を分かつ存在であると説きました。
 何だか難しそうな理論だな、と思われるかもしれませんが、ゼノンの思想は、要するに「理性の法に従って生きよ」ということに尽きると思います。
 「理性の法」は、「自然の法」とも換言でき、時代や民族や国家の違いを越えて、全ての人間に共通する永遠の法であるとゼノンは考えたようです。
 こうしたストア学派の考え方は、近代の自然法思想に大きな影響を与えたとされています。

 また、ゼノンは、「感情は魂の激しい羽ばたきである」と説きました。
 驚いたときの鳥の慌てた動きをもとに、人が感情的部分に動じやすいことを喩えたのです。そして、 外界からの影響で生じた感情や欲情に動揺することのない境地である不動心(=アパテイア)が、知者には備わっているとします。
 高度複雑化した社会の中で、感情や欲情に支配されがちな現代人にとって、そして、ほかならぬ私自身においても、これは強い戒めとすべき警句なのかもしれません。

 参照文献:『倫理資料集』(山川出版社)、『用語集倫理【新版】』(清水書院)